【緒言】昨年度の研究により、SPMを妊娠マウスに曝露すると雄性出生仔の免疫担当細胞バランスに影響が生じることを明らかにした。しかし、免疫担当細胞バランスのかく乱の発生機序は不明である。そこで今年度は、SPMを妊娠マウスに投与し、胎仔の遺伝子発現に与える影響を検討し、出生仔で生じた影響の解明を試みた。【方法】ICR系妊娠マウスにSPM(200μg/匹)を妊娠7日目、13日目に気管内投与した。妊娠14日目に胎仔を摘出し、性別判断を行った。1母体あたり雄性胎仔3匹を無作為に抽出し、雄性胎仔のtotal RNAを抽出した後、cDNAを合成した。合成したcDNAを用いて雄性胎仔の遺伝子発現解析を行った。検討した遺伝子は、性分化関連因子、ステロイド関連因子、各種ホルモン受容体、異物代謝関連・ストレス関連因子などの45遺伝子である。【結果および考察】SPM曝露による胎仔への影響を検討するため、遺伝子発現解析を行ったところ、45遺伝子中7遺伝子に変動が認められた。最も発現変動が大きかった遺伝子は、免疫系や異物を代謝する酵素誘導に関与するタンパク質の一つである芳香族炭化水素受容体(AhR) mRNAであり、SPM群は対照群の約33%に減少した。また、芳香族炭化水素受容体制御因子(AhRR) mRNAは28.7%増加した。AhRRはAhRの発現を抑制することから、AhRR mRNAの発現量の増加がAhR mRNA発現抑制に関与している可能性が考えられる。その他、発現に変動が認められた遺伝子は、性分化、ステロイド合成などに関与する遺伝子であった。以上のことより、胎仔期のSPM曝露が、胎仔の様々な遺伝子発現を変動させ、出生仔の免疫系などに影響を与える起因となっている可能性が考えられる。
|