本年度は、親電子性物質により誘導される酸性スフィンゴミェリナーゼ(ASMase)が、細胞に対してどのような機能を発揮しているのかについて、細胞死誘導および炎症応答に与える影響を解析することで検討を行った。 ・細胞死誘導に対する影響 親電子性物質により誘導される細胞死に対するASMaseの関与を、ASMase特異的阻害剤を用いた薬理学的解析およびASMaseを標的としたsiRNAを用いた発現抑制実験などの分子生物学的解析により検討した。その結果、ASMaseの活性や発現を阻害することにより、細胞死の誘導は顕著に抑制された。この結果より、親電子性物質により誘導されるASMaseが細胞死の誘導に関与することが示唆された。 ・炎症性サイトカインの生成に対する影響 親電子性物質は炎症反応を誘導し種々の疾病を引き起こすことが考えられる。予備実験より、予め親電子性物質に暴露した細胞では、炎症性サイトカインであるTNF-αにより引き起こされるIL-6の産生が顕著に亢進することが見出された。そこで、この炎症応答の亢進へのASMaseの関与を、薬理学的解析および分子生物学的解析により検討したところ、確かに発現誘導されたASMaseがTNFαに対する細胞の感受性の亢進に関与することが明らかとなった。この結果は、親電子性物質に曝露されASMaseが誘導されるような環境では、通常では炎症を引き起こさないレベルの誘導因子によってもASMaseを介して炎症が誘発される可能性を示唆しており、ASMaseが親電子性物質により引き起こされる炎症において、重要な機能を果たしていることした点で意義ある成果であると考えられる。
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