研究概要 |
メタロチオネイン(MT)は、酸化ストレスや炎症反応に対して保護的役割を有することから、血管組織におけるMTは、動脈硬化病変の発症・進展に対して防御的に寄与できると考えられる。本研究では、モデル動物と細胞培養系を活用し、動脈硬化病変の発症と進展におけるMTの役割を解明することを目的としている。平成21年度は、粥状動脈硬化モデルであるアポリポ蛋白E欠損マウス(ApoEノックアウトマウス)とMT-IおよびMT-II欠損マウス(MT-I/IIノックアウトマウス)を掛け合わせたApoE/MT-I/IIトリプルノックアウトマウスの作製を試みた。平成22年度は、この遺伝子改変マウスを用いて、動脈硬化病変の発症と進展におけるMTの役割を解明する予定である。また、ヒト冠動脈血管内皮細胞および脳毛細血管内皮細胞を用いて、血管病変誘発の危険因子のひとつであるヒ素の曝露によって発現変動する遺伝子をDNAマイクロアレイ法により解析したところ、10μMの亜ヒ酸に12時間曝露したヒト冠動脈血管内皮細胞において、発現量が2倍以上に増加した遺伝子は6種類(MT1E, MT1H, HTRA3, MT1B, EDNRB, HMOX1)認められた。ヒト脳毛細血管内皮細胞では、亜ヒ酸曝露によって10種類(MT1E, MT1H, HMOX1, EDNRB, MT1B, FTL, SPARC, BNIP3L, OPTN, Cllorf74)の遺伝子の発現が増加したが、このうち、MT遺伝子を含む5種類の遺伝子が冠動脈血管内皮細胞で認められたものと共通していた。一方、両細胞において亜ヒ酸曝露により発現量が1/2以下に減少した共通遺伝子は12種類(TRIB3, PLUR, SULF2, LIPG, SC65, KLF2, ADAMTS1, SULTIB1, PPAN, MPZL2, ISG20, HOHD4)であった。以上の結果より、MT遺伝子をはじめ、亜ヒ酸に曝露した血管内皮細胞において発現変動した遺伝子の中に亜ヒ酸による血管病変誘発作用に影響を及ぼす遺伝子が含まれる可能性が示唆された。
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