本研究課題は、MTF-1を介した重金属依存的な転写活性化の分子機構を明らかにすることを目的としており、(1).MTF-1自身のリン酸化修飾を介した活性制御機構の解析と(2).MTF-1によるクロマチン構造変化を介した遺伝子発現制御機構の解析において一定の成果を得た。(1)のMTF-1自身のリン酸化修飾に関しては、c-Jun N-terminal kinase(JNK)によってMTF-1がリン酸化されることでMTF-1の転写活性化能が変化する可能性を想定し、MTF-1のリン酸化部位(計9箇所)に1箇所ずつ変異を導入した各変異型MTF-1および9箇所全てに変異を導入した変異型MTF-1について転写活性化能を調べた。その結果、JNK阻害剤および活性化剤を用いた検討より、JNKは重金属依存的な転写活性化に関わっているものの、JNKによるMTF-1のリン酸化は転写活性化能に影響を与えないことが示唆された。(2)のMTF-1によるクロマチン構造変化に関しては、クロマチン免疫沈降法およびマイクロコッカルヌクレアーゼ感受性試験により、亜鉛によるMTF-1依存的なメタロチオネイン(MT)遺伝子の転写活性化に伴ってMT遺伝子プロモーターかうヒストン・コア粒子が取り除かれていることが明らかとなった。また、このようなクロマチン構造変化は、MTF-1がプロモーター上に存在しなくなった後も数時間は持続していると考えられる結果が得られた。なお、ヒストン・コア粒子を取り除く因子は現時点では不明である。ヒストン・コア粒子がどのタイミングで元の状態に戻るのかについては現在検討中である。
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