研究概要 |
肝臓において有機アニオンの取り込みに関与するorganic anion transporting polypeptides (OATPs/Oatps)について、ラットにおいてはOatp1a1、ヒトにおいてはOATP1B1およびOATP1B3の機能をシクロスポリンが持続的に阻害することを示し、この機序によって重大な薬物間相互作用を引き起こす可能性があることを示した。そこで、ヒトOATP1B1の阻害機序に着目して、検討を行った。シクロスポリン曝露によるOATP1B1発現量の変化は認められなかった。また、細胞内での局在変化も認められなかった。これらのことから、シクロスポリンはOATP1B1の膜表面における発現量の変化を伴わずに、機能を低下させることが示された。極性のあるMDCK細胞にOATP1B1を発現させ、OATP1B1発現部位(basal側)または非発現部位(apical側)にシクロスポリンを曝露し、その機能評価を行ったところ、apical, basalのいずれに対してシクロスポリンを添加した場合であっても、OATP1B1の機能は低下した。このことから、シクロスポリンをOATP1B1に直接的に曝露することなく、細胞内に存在することだけで、OATPの機能が低下することが示された。この機序により、細胞内にシクロスポリンが存在する間はOATPの機能が低下するために、その機能低下は持続的となることが示された。 また、肝臓OATP/Oatpだけでなく、消化管吸収に関与するOatpに対するシクロスポリンによる影響についても検討を行った。シクロスポリンを投与した後、3時間または1日経った後で、ラットに対してフェキソフェナジンを静脈内または経口投与した。シクロスポリン投与3時間後においては、フェキソフェナジンの消化管吸収を亢進するのに対して、投与1日後においては吸収を低下させることが明らかとなった.シクロスポリン投与3時間後においては、P-糖タンパクによる汲み出しを阻害するのに対して、投与1日後ではOatpを介した吸収を持続的に阻害する効果が優位に見られたためと考えられる。このことより、肝臓Oatpだけではなく、消化管Oatpもまたシクロスポリンによって持続的に阻害されるごとが示された。
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