近年の研究の進展により、肥満症や糖尿病、脂質異常症などの病態は相互に増悪因子となり、脂肪肝に引き続く非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの肝病態や胆石症、動脈硬化症などの発症リスクを高めることが明らかとなったが、その増悪機序に関しては未だ不明な点が多い。本研究は、コレステロールの消化管吸収・胆汁排出に重要な役割を果たすNiemann-Pick C1-like 1(NPC1L1)およびABCG5/ABCG8の病態進行に伴う発現量変動(mRNA、蛋白質)を見出し、その変動をもたらす分子機序を明らかにすることを目的としている。 本年度は、一過性トランスジェニックマウスを作成する際に用いるヒト輸送担体発現アデノウィルスベクターの構築およびL-FABPによる輸送担体群の発現制御に関する検討を進めた。 一過性トランスジェニックマウスの構築のためには、ヒトNPC1L1およびヒトABCG5/ABCG8の遺伝子および発現調節領域のDNA配列が必要となるため、保有していなかった配列に関しては、ヒト由来培養細胞やヒト組織等より得た。ヒト・マウス間での類似性および種差について検討するために、マウスNPC1L1遺伝子および転写調節領域のDNA配列も得た。現在、得られた配列を用いて、ヒト発現調節領域制御下にヒト輸送担体を発現するアデノウィルスの作成を進めている。 脂肪酸やコレステロールとの結合能を有する細胞質蛋白質であるL-FABPの発現は、ABCG5/ABCG8には影響を与えないものの、NPC1L1蛋白質発現量を正に制御することが各種in vitroおよびin vivo解析により明らかとなった。一方、NPC1L1のmRNA量はL-FABP発現による影響を受けないことから.L-FABPによる発現制御が転写後調節であることが示唆された。
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