近年の研究の進展により、肥満症や糖尿病、脂質異常症などの病態は相互に増悪因子となり、脂肪肝に引き続く非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの肝病態や胆石症、動脈硬化症などの発症リスクを高めることが明らかとなったが、その増悪機序に関しては未だ不明な点が多い。本研究は、コレステロールの消化管吸収・胆汁排出に重要な役割を果たすNiemann-Pick C1-like 1 (NPC1L1)の病態進行に伴う発現量変動(mRNA、蛋白質)を見出し、その変動をもたらす分子機序を明らかにすることを目的としている。 本年度は、ヒト輸送担体発現アデノウィルスベクターを用いた解析に加え、3'-UTRによるmRNA安定性の制御に関する検討を行った。 生理的な発現調節を反映する一過性トランスジェニックマウスを作成するために、ヒトNPC1L1の発現調節領域の制御下にヒトNPC1Llの遺伝子配列を配置したアデノウィルスベクターを作成した。培養細胞系においてはヒトNPC1L1タンパク質を発現可能であることが確認できたものの、in vivoに導入した場合、マウス肝臓における発現は微弱であったため、発現量を高めるべくエンハンサー配列を加えたアデノウィルスベクターの構築を進めている。 レポータージーンベクターに3'-UTRを挿入し、NPC1L1の3'-UTRがmRNA安定性にもたらす影響について検討した結果、NPC1L1の3'-UTRには複数のmiRNA標的配列が存在し、NPC1L1が複雑な転写後調節を受けていることを示唆する結果を得た。制御因子の候補となるmiRNAには脂肪肝の進行に伴い発現量が変動するものも含まれており、現在、病態発症・病態進行との関連性について検討中である。
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