研究概要 |
複雑で多様な構造を有した医薬品開発の進展に伴い、複数のトランスポーターに基質として認識される医薬品が増加している。これに伴い、種差などによる薬物動態特性の複雑さはより一層増大し、動物実験からのヒト消化管吸収性予測を困難にしている。例えば、β_1受容体遮断薬talinololは、グレープフルーツジュース(GFJ)の併用により、ラットにおいてはAUCの上昇が、ヒトにおいてはAUCの低下が報告されている。そこで本年では、ヒトおよびラットのOATP/OatpおよびP-gpに対するGFJ主成分naringinの親和性に着目し、talinolol-GFJ間相互作用における種差についての検討を試みた。Oatpla5発現oocyteおよびLLC-PK1/Mdrla細胞を用いた検討より、talinololがラットOatpla5およびP-gpの基質となることが明らかとなった。また、ラットOatpla5およびP-gpによるtalinolol輸送はGFJの主成分であるnaringinにより阻害され、そのIC^<50>値はそれぞれ13μMおよび604μMと算出された。従って、talinololのラット消化管吸収に対するOatpla5およびP-gpの影響が、naringinのIC^<50>値の違いに基づいて観察できる可能性が示唆された。そこで、ラット小腸を用いたin situ closed loop法を用いて、talinololの吸収に対するnaringinの影響を検討した。その結果、talinololの膜透過性は200μM naringin存在下で有意に低下し、2,000μM naringin存在下では上昇する結果が得られた。さらに、OATPIA2発現oocyteおよびLLC-PK1/hMDR1細胞を用いた検討により、talinololがヒトOATPIA2およびP-gpの基質となることが明らかとなった。また、ヒトOATPIA2によるtalinolol輸送はnaringinにより阻害され、そのIC^<50>値が343μMと算出されたのに対し、ヒトP-gpによるtalinolol輸送については2,000μMまで有意な影響を受けなかた。以上より、GFJ(実測naringin濃度:1198μM)に対しては、ヒトではOATPのみが、ラットではP-gp及びOatpが共に阻害されると推察され、talinolol-GFJ間相互作用における種差が、OATP/OatpおよびP-gpに対するnaringinの親和性の違いで説明できる可能性が示された。本研究の成果は、トランスポーター基質薬物の動物実験からのヒト消化管吸収性予測における正しい解釈を議論する基礎的情報を提供できるものと期待される。
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