尿細管における物質輸送には細胞膜上に発現する膜タンパク輸送体(トランスポータ)が重要な役割を果たしている。薬物トランスポータの発現並びに機能変動は、薬物動態と密接に関わることが報告されている。しかし、ヒト慢性腎疾患時における薬物トランスポータの変動に関する情報は不明な点が残されている。そこで本研究では薬物トランスポータ発現変動機構を解明することを目的とした。代謝性アシドーシスとは、体内における酸性代謝物の産生や体外からの酸負荷の増大によって血液が酸性化される病態である。これまで、代謝性アシドーシス時にH+排泄に関わるNa+/H+exchanger 3やsystem N glutamine transporter SN1の活性及び発現量が上昇することが報告されているが、代謝性アシドーシス時における腎薬物トランスポータの発現変動と薬物腎排泄能への影響については不明であった。そこで代謝性アシドーシスモデル動物を用いて薬物トランスポータの変動と薬物腎排泄について検討した。代謝性アシドーシスモデルラットのフェノールスルホンフタレイン(PSP)腎排泄への影響について調べた結果、代謝性アシドーシスモデルラットにおいてPSPの血中濃度はNormalラットと比べ高値を示し、全身クリアランス及び腎クリアランス両方とも有意に低下した。一方、メトホルミン投与群では変動が見られなかった。これらの結果から、代謝性アシドーシス時には、アニオン性薬物の体内動態が変化することが示唆された。さらに薬物トランスポータの発現量について検討したところ、側底膜に発現する有機アニオントランスポータOAT3タンパク発現量が代謝性アシドーシスモデルラットではNormalラットと比べ顕著に低下した。一方、OAT1や刷子縁膜のトランスポータ群では変動が見られなかった。これらの結果から、代謝性アシドーシス時には、rOAT3のタンパク発現量が減少し、PSPの全身クリアランス及び腎クリアランスの低下を引き起こすことが示唆された。
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