最近、IgGの組織細胞動態にFcRnと呼ばれるレセプターが重要な役割を担っていることが相次いで報告されている。一方、抗体医薬の多くはIgGを基本構造とし、様々な疾患を有する患者に投与されるが、そのような疾患時において、FcRnの発現や機能がどのように影響を受け、また、その結果として、IgGの全身あるいは組織細胞動態がどのように変化するかについては不明である。そこで、本年度は腎障害時におけるIgG動態とFcRnの発現変動を中心に解析を進めるため、腎障害性薬物シスプラチン(CDDP)を投与したマウスにおけるIgGの体内動態およびFcRnの発現変動について検討した。 実験動物にはddy系マウスを用い、その尾静脈からFITC標識ヒトIgGを単回投与し、投与後15日間にわたり採血および採尿を行った。CDDPは腹腔内に5mg/kgを7日おきに計3回投与した。CDDP投与による腎機能障害の誘発はBUN値を測定することで確認した。 CDDP投与群におけるFITC-IgGのT_<1/2β>は約7日と算出され、対照群とほぼ同程度であった。したがって、CDDPによる腎機能障害はIgGの血漿中からの消失には大きな影響を与えないものと考えられた。一方、分布容積はCDDP投与群でやや増加する傾向が認められ、IgGの組織間液中への移行が低下している可能性が示唆された。また、FcRn mRNAの発現変動について、CDDP投与後7日目において検討した結果、腎では大きな変化はなかったものの、肝では低下する傾向が観察された。現在、採尿したサンプルを用い、FITC-IgGの尿中排泄変化について解析を進めている。また、次年度は、糖尿病モデルやLPS誘発敗血症モデル動物を用いて、IgG動態およびFcRn発現変動について解析する予定である。
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