前年度までに、脱メチル化剤によるCYP3A4遺伝子の発現増加は転写因子の誘導によるものではなく、CYP3A4遺伝子自体の脱メチル化に起因することが示し、レポーターアッセイではエンハンサーとプロモーターを近接させたベクターでは約30倍の転写活性の上昇を認めた。 平成22年度は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤によるヒストンアセチル化の亢進がCYP3A4発現量へ与える影響を検討すると同時に、これらエピジェネティクス関連領域が、ヒト肝臓において高次構造の変化により近接効果を発揮し、その結果として転写活性が上昇しているのかを明らかにするため、Chromosome Conformation Capture (3C)アッセイを行った。 その結果、脱メチル化を伴わないヒストンアセチル化の亢進のみではCYP3A4発現の上昇は認めなかった。脱メチル化剤の投与によりCpGの脱メチル、ヒストンアセチル化、CYP3A4発現上昇が同時起こったことと併せて考えると、CYP3A4発現調節機構にはDNAのメチル化が上位の制御機構として働いていることが想定される。3Cアッセイの結果、エピジェネティクス関連領域と近接効果を認めたのはCYP3A4遺伝子の転写開始点近傍のみであり、その前後の領域においてはスコアの上昇は示さなかった。これらのことからエピジェネティクス関連領域のDNAメチル化に伴い、高次構造の変化が起こることでCYP3A4転写開始点に対して遠位のエンハンサーが効果的に転写活性化を行うことが明らかとなり、同領域のメチル化状態を同定することがCYP3A4活性の個人差要因を特定するのに重要であると思われる。
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