本研究では、新規メタボリック症候群改善薬の提示を最終目的とする。前年度までに小胞体ストレス誘導方法(タプシガルギン添加法)にて3T3-L1細胞を処理することにより、酸化ストレス防御酵素(EC-SOD)並びにアディポネクチン発現量が減少することを見出している。そこで、平成22年度では他の小胞体ストレス誘導方法(ツニカマイシン添加法)を用いることにより、小胞体ストレス下の3T3-L1細胞におけるEC-SODのmRNA発現変動を詳細に解析した。ツニカマイシンにて3T3-L1細胞を処理したところ、EC-SOD及び他のSODアイソザイムの発現量に変化は認められなかった。この結果は、小胞体ストレス下のCOS7細胞を用いた時の実験結果と同様であった。また、アディポネクチン発現変動においても、タプシガルギン処理した細胞と比較しその発現量の減少は軽度であった。次に、小胞体ストレス誘導方法によるシグナル伝達経路の差異を比較検討したところ、小胞体ストレス制御因子であるATF6の活性化はいずれの処理方法においても認められたが、eIF2α及びXBP-1の活性化はタプシガルギン添加法でのみ活性化が認められた。前年度までに、タプシガルギンによるEC-SOD発現減少機構に及ぼすeIF2αの関与の可能性を見出しているが、eIF2α脱リン酸化阻害剤(salubrinal)を前処理することにより、ツニカマイシン処理細胞においてもeIF2αの活性化並びにEC-SOD発現量の減少が認められた。この成果から、3T3-L1細胞におけるEC-SOD発現は、小胞体ストレス下において普遍的に制御を受けるのではなく、eIF2αに由来するシグナルが重要であると推察された。 以上、平成22年度の研究成果により、in vitro小胞体ストレス下においてEC-SOD発現量は、小胞体ストレス制御因子の中でも特にeIF2α由来のシグナルにより制御されることが見出された。このことから、eIF2α由来のシグナル経路を制御することにより、小胞体ストレス下におけるレドックス恒常性の維持しいてはメタボリック症候群の予防が可能であると考えられる。
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