バイオマーカーは生理的状態や病態の変動、治療への応答等と相関した血液や尿、組織等の生体試料から得られる客観的な指標である。近年、病態の診断や予防、治療への反応性や効果などを予測することを目的としたバイオマーカーの開発が注目されており、疾病の予防やオーダーメイド医療への応用が期待されている。動脈硬化性疾患の発症や再発を阻止するには、より早期の診断と治療開始が必要であるが、動脈硬化症発症の初期段階を診断可能なバイオマーカーはまだ実用化されていない。申請者らは、miRNAが動脈硬化症発症のマーカーとなり得るかどうか検討するため、病態モデル動物や臨床検体を用い、動脈硬化症発症・進展に関与するmiRNAの同定を目指して解析を進めている。我々はこれまでに、健常マウスまたは大動脈弓組織に軽度の脂肪沈着が認められる12週齢のApoE欠損脂質異常症マウス(動脈硬化症モデルマウス)における動脈硬化症発症部位よりtotal RNAを抽出し、miRNAの精製・クローニングやmiRNAアレイを用いたマイクロアレイ法により、両群間において特異的に発現が変動するmiRNAの探索を行うことで動脈硬化症発症に関わるmiRNAの候補を得てきた。また、我々はこれまでに、名古屋市立大学病院循環器内科を受診した心血管疾患の既往歴を有する患者を対象として血漿中miRNAの発現を検討し、特定のmiRNAの発現が有為に変動することを見いだしている。現在我々は、これらの得られたmiRNA候補のスクリーニングを進めている。動脈硬化症発症の早期段階において発現の変動するmiRNAの同定後は、miRNAの標的遺伝子の同定や培養細胞への導入を行うことにより動脈硬化症の進行への影響を検討する予定である。
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