研究概要 |
げっ歯類において、麻薬性鎮痛薬などのカチオン性薬物の脳移行の鍵を握るのは有機カチオン(OC^+)/プロトン(H^+)アンチポーターであることを私はこれまでに提唱してきた。しかしヒトの血液脳関門におけるOC^+/H^+アンチポーターの機能は、ヒト脳組織入手の問題もあり、全く検討されていない。近年樹立されたヒト脳毛細血管内皮細胞株(hCMEC/D3)をヒト血液脳関門のモデル細胞として用い、ヒト血液脳関門におけるOC^+/H^+アンチポーターの機能を解析した。 OC^+/H^+アンチポーターのプローブリガンドである[3^H]pyrilamineのhCMEC/D3細胞への取り込みは、濃度依存性およびエネルギー依存性を示し、細胞内酸性化および細胞外アルカリ化により顕著に増加した。このことから、げっ歯類と同様、ヒトの血液脳関門においても、逆向きのH^+濃度勾配を駆動力とする有機カチオン輸送体が機能していることが明らかとなった。次にhCMEC/D3細胞における有機カチオントランスポーターの遺伝子発現について、定量PCRにより測定した。その結果、既知有機カチオントランスポーターのうち、OCTN1(SLC22A4),OCTN2(SLC22A5)およびPMAT(SLC29A4)が高発現する一方、OCT1-3(SLC22A1-3)およびMATE1-2(SLC47A1-2)の発現はわずかであった。このヒト血液脳関門における有機カチオントランスポーターの遺伝子発現パターンはラット血液脳関門における発現パターンと類似していた。 以上の結果から、げっ歯類と同様、ヒト血液脳関門においてOC^+/H^+アンチポーターが機能し、麻薬性鎮痛薬を含めたカチオン性薬物の脳移行を制御していることが示唆された。
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