研究概要 |
昨年度までの研究により、麻薬性鎮痛薬などのカチオン性薬物の脳移行の鍵を握るのは血液脳関門における有機カチオン(OC^+)/プロトン(H^+)アンチポーターであることを明らかにしてきた。しかしOC^+/H^+アンチポーターの分子実体は不明のままで、中枢作用薬の脳への送達法および適正使用法の確立の観点からその解明が切望されている。本研究ではOC^+/H^+アンチポーターの分子同定を目指し、ヒト脳毛細血管内皮細胞株(D3細胞)を用いてRNA干渉法による有機カチオン輸送体の機能解析法を確立した。 まず、D3細胞における有機カチオン輸送体の遺伝子発現をqPCRにより測定したところ、OCTN1(SLC22A4),OCTN2(SLC22A5),PMAT(SLC29A4),CTL1(SLC44A1),CTL2(SLC44A2)が高発現する一方、OCT1-3(SLC22A1-3)およびMATE1-2(SLC47A1-2)の発現はわずかであった。これらD3細胞に高発現する有機カチオン輸送体に対するsiRNAを作製し、遺伝子発現抑制効率を最適化したところ、いずれも90%以上の抑制効率を示した。これらトランスポーターのうち少なくともOCTNが、カルニチン輸送体として機能することが示された。さらに有機カチオン輸送体のsiRNAライブラリーを作製して解析した結果、OC^+/H^+アンチポーターの候補分子を抽出することに成功した。 以上の結果から、本研究で確立したヒト血液脳関門細胞を用いたRNA干渉法による有機カチオン輸送体の機能解析法は、麻薬性鎮痛薬の脳移行を制御するOC^+/H^+アンチポーターの同定のみならず、ヒト血液脳関門におけるトランスポーター機能解析に有用な方法であることが示唆された。
|