研究概要 |
肝虚血再灌流(I/R)障害は、肝臓への血流を遮断、再灌流する際に生じ、肝移植時に避けられない問題である。肝I/R障害時には、肝臓の機能低下のみならず遠隔臓器である腎臓にも影響を及ぼすことが知られている。一方、肝I/R障害をはじめとする酸化ストレス起因性の疾患時には、数々の薬物トランスポータの発現量、機能変動が報告されている。しかしながら、肝I/R障害が腎臓の有機カチオントランスポータの機能や発現量に及ぼす影響については解明されていない。本研究では、肝I/R障害モデルラットを用い、シメチジンの体内動態変動並びに有機カチオントランスポータ変動とその変動機構について検討を行った。その結果、再灌流12時間後のI/Rラットにおけるシメチジンの血中濃度-時間曲線化面積(AUC)は、Shamラットに比べ有意に上昇し、一方、全身クリアランス、腎クリアランス、腎分泌クリアランスは有意に減少していた。また、I/Rラットの腎粗膜画分中のrat有機カチオントランスポータ2(rOCT2)、H^+/有機カチオン逆輸送体(rMATE1)の蛋白発現量は、Shamラットに比べ有意に減少していた。さらに、抗酸化剤であるTroloxRを再灌流5分前に投与したところ、肝I/R障害後にみられたシメチジンのAUCの増加並びに全身クリアランスの減少は改善し、rOCT2,rMATE1の蛋白発現量の減少も抑制された。以上より、肝I/R障害時におけるシメチジンの全身クリアランスが減少する機構には、腎近位尿細管に発現するrOCT2、rMATE1を介した腎排泄の低下が関与することが示唆された。さらに、肝I/R障害時に生じる酸化ストレスがrOCT2、rMATE1の発現量と機能低下に関与することが示唆された。本研究成果は、肝I/R障害時におけるカチオン性薬物の腎排泄低下とその機構を示唆する有用な知見である。
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