Fcドメイン融合タンパク質医薬品であるエタネルセプトやアレファセプト等は、膜タンパク質の細胞外ドメインに抗体のFcドメインを融合させた改変型ヒトタンパク質であるが、血中半減期が約20日であるヒトIgGと比較するとその半減期が短い。この原因の一つとして、抗体等の分解抑制に関わるFc受容体(FcRn)に対する親和性がFcドメイン融合タンパク質では低いことが挙げられる。しかし、生体内分布の違い(組織への蓄積等)やFcRnと関連しない分解経路なども、抗体と融合タンパク質の血中半減期の違いに関与している可能性が考えられる。また、FcRnとの親和性の違いが体内分布に与える影響についても研究が進んでいない。本研究は血中半減期の異なる抗体とFcドメイン融合タンパク質との間にどのような分布、分解の差があるのかを明らかにすることが目的である。 具体的には、マウスFcRnへの親和性が異なる抗体や融合タンパク質の標識体をマウスに投与し、生体内分布、分解の解析を行う。なお、抗体等の標識にFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)やBRET(生物発光エネルギー移動)などの手法を用いることにより、分解されていない抗体や融合タンパク質の分布を可視化するだけでなく、これらタンパク質の分解が促進されている組織の特定を目指している。 これまでに、マウスFcRnの発現、精製を行い、SPRによるマウスFcRnと抗体等の親和性解析系の確立を試みた。解析系の最適化については検討中だが、TNFを結合標的とした融合タンパク質であるエタネルセプトは、同じくTNFを結合標的とした抗体であるインフリキシマブと比較し、マウスFcRnとの親和性が低い結果が得られた。このため、これらのタンパク質の比較によりFcRnとの親和性の違いが分布分解に与える影響について解析可能であると考えられる。また、標識法としては、各種Alexa Fluor色素を使用してFRETが起こる蛍光標識抗体を作製し、分解によりFRET効率が減少することを明らかにした。
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