申請者の研究グループは、マウス白血病ウイルスによって引き起こされたリンパ腫瘍からウイルス挿入部位を同定することで、がんの原因遺伝子の網羅的スクリーニングを行ってきた。その結果、既知のものを含む複数のがん抑制遺伝子候補を同定することに成功し、そのうち新規候補の1つとして、ピストン脱メチル化酵素のモチーフ、JmjCドメインをコードするJmjd5を得た。本研究では、Jmjd5コンディショナル・ノックアウトマウスを作製し、Jmjd5の個体レベルにおける生理機能・がん発症メカニズムを解明することを目的とする。まず、ターゲティング・ベクター由来のNeo遺伝子カセットが挿入されたままのJmid5変異アレルをホモに持つマウス(Jmjd5^<neo/neo>)は、心臓浮腫や出血、そして卵黄膜上を走行する血管分布パターンの異常といった典型的な血管新生異常を示し、胎生11日目前後に胚性致死となった。一方、colony forming解析によって血液発生への影響を調べた結果、Jmid5^<neo/neo>卵黄膜から増殖してくる血液前駆細胞の数は、野生型と比べて明らかに減少していた。一方、生殖細胞でCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウスとの交配で得られたJmjd5 nullマウスは、胎生10日目前後に胚性致死となり、Jmid5^<neo/neo>マウスよりも強い表現型異常が認められた。つまり血管・造血発生異常のみならず、尿膜形成異常および胚全体の著しい成長阻害が観察された。従って平成21年度は、以上の結果から示唆されたJmid5の新しい生理機能((1)血管発生と血液発生の制御、(2)細胞の増殖制御)に関して、実験的に仮説の検証を行っていく。
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