私達の研究グループは、レトロウイルス挿入変異法の結果、新規がん関連遺伝子候補としてヒストン脱メチル化酵素をコードする、Jmjd5を同定した。本研究では、Jmjd5変異マウスを作製し、個体レベルでの生理機能・がん発症との関わりを調べ、以下の実験結果を得ることに成功した。 (1)Jmjd5 nullマウスの表現型解析の結果、この欠損マウスは著しい成長阻害や血管新生異常を伴い、胎生11日目前後に胚性致死となることが観察された。また、Jmjd5 hypomorphic変異MEFを用いた解析結果、細胞増殖能の著しい低下が観察された。(2)胚発生期に関わる細胞周期調節因子の網羅的な定量PCRスクリーニングの結果、欠損胚および変異MEFどちらにおいても、p21(Cdkn1a)の発現が有意に上昇していることを発見した。p21特異的siRNAを用いてノックダウン解析を行ったところ、p21ノックダウン変異MEFの細胞増殖活性が、未処理の変異MEFと比較して有意に回復した。(3)p21の発現亢進が、主要なp21発現誘導因子の1つであるp53の発現量変化に起因しているかを検討した結果、p53 mRNAとp53蛋白質の発現上昇は、欠損胚および変異MEF、どちらでも認められなかった。(4)ChIP解析の結果、変異MEFにおけるp21遺伝子座上のヒストンH3K36メチル化修飾が有意に上昇していることを見出した。 以上より、Jmjd5はp21遺伝子座上のヒストンメチル化修飾の性状を負に制御することで胚細胞の正常な増殖に貢献する、発生過程に必須な因子の1つであることが証明された。今後、血管新生経路における関与を検討するために、最近作製に成功した血管特異的Jmjd5欠損マウス(tie2-Cre;Jmjd5^<flox/flox>)を用いて実験を進める予定である。
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