異常な構造を持つ蛋白質が小胞体内に蓄積する状態を小胞体ストレスとよぶ。細胞はこのストレスに対しunfolded protein response (UPR)を活性化させ、異常タンパク質蓄積による小胞体の破綻を回避しようとする。UPRの発動には小胞体膜上に存在する種々の小胞体ストレスセンサーが必要である。本研究では、小胞体ストレスセンサーBBF2H7の生体内の機能を明らかにするために、BBF2H7遺伝子欠損マウスを作製した。BBF2H7遺伝子欠損マウスは、四肢および体幹の著明な短縮や胸郭の形成不全を示し、出生直後に呼吸不全のため死亡する。病理組織学的には軟骨基質の著明な減少、成長軟骨の増殖層および肥大層の発達不全、および軟骨細胞の小胞体異常拡張が観察された。この軟骨形成異常のメカニズムを明らかにするために、野生型およびBBF2H7欠損軟骨組織を用いてマイクロアレイ解析を行ったところ、小胞体-ゴルジ間輸送に関わるSec23aの発現がBBF2H7遺伝子欠損マウスで著明に減少していた。そこで小胞輸送に焦点をあて解析を実施したところ、BBF2H7欠損軟骨細胞ではCOPII小胞の形成抑制のため、II型コラーゲンなどの軟骨基質タンパク質の小胞輸送が障害されていた。この現象はBBF2H7あるいはSec23aの強制発現によりレスキューされた。軟骨細胞は軟骨基質を大量に産生分泌する細胞であり、小胞体に常に過剰な負荷がかかる。BBF2H7はこの小胞体負荷に対して小胞体-ゴルジ間輸送系をSec23aの転写を介して活性化させることでタンパク質の効率的な分泌に寄与しているものと考えられた。
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