研究概要 |
本研究はラット単離胃粘膜モデルで見出された胃小窩壁細胞剥離現象の詳細を明らかにし、びらん性胃炎等の胃酸分泌関連疾患との関連性を検討することを目的とする。ラット単離胃粘膜とは、ラットの胃粘膜を細片化し培養液中で長期培養することを可能にした実験モデルであり、このモデルにおいて酸分泌刺激を加えた胃小窩の壁細胞が剥離するという現象を見出した(Aoyama et al., Histochem Cell Biol,2008)。これまでの研究結果から、剥離前後の壁細胞内には通常みられないプロトンポンプを有する多重膜構造物が出現しており、近接する粘液細胞が細胞欠損部を埋めるかのようなダイナミックな細胞動態を示す所見が得られていた。壁細胞剥離の制御が可能になれば新たな胃酸関連疾患の予防や治療法の開発に繋がるものと期待される。 本年度は、NSAID(非ステロイド性消炎鎮痛剤)投与によるびらん性胃炎(実験潰瘍)モデルの確立を目標として実験を行った。NSAIDを経口投与した絶食ラットから単離胃粘膜を作製し、培養液中で5~90分刺激した結果、酸分泌刺激時と同様に胃小窩壁細胞剥離が確認された。一部の単離胃粘膜には、胃小窩より上方に上皮傷害がみられた。一方、コントロール群となる絶食ラットより作製した単離胃粘膜培養では同様の現象はみられなかった。 一般にNSAIDは胃粘膜防御機構を低下させると言われるが、その発生機序には諸説があり、病理組織学的な詳細は今なお明らかになっていない。NSAID投与単離胃粘膜モデルにおいては、表層粘液細胞の上皮欠損部を補うシーリング機構の減弱が想定され、その結果として部分的なびらんを生じたものと考察された。
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