多細胞生物の「形づくり」において、「原腸陥入」を中心に進行する「原腸胚形成」は極めて重要な過程であるが、そのしくみについてはほとんど明らかにされていない。この時期の両生類胚から胚細胞を単離すると、予定外胚葉細胞では自律的なブレッブ形成および周回運動がみられ、予定中胚葉および予定内胚葉細胞の多くは自律的にシリンダー状に細長く伸長する。本研究では、原腸胚細胞にみられる自律的な細胞運動のしくみとそれが原腸陥入に果たす役割について解明を目指した。平成21年度の研究結果をふまえ、自律的な細胞運動に関わる細胞内カルシウムイオン動員機構の発達および細胞骨格の構築について解析を進めた。その結果、予定外胚葉細胞では、ブレッブ領域で細胞内カルシウムイオン濃度の上昇、および、細胞膜直下に豊富なアクチン線維の存在が認められた。予定外胚葉細胞にみられる細胞運動は、カルシウムイオンチャネルであるリアノジン受容体およびジヒドロピリジン受容体の阻害剤投与により阻害された。予定中胚葉および予定内胚葉細胞では、伸長端領域と細胞表面の収縮部位で細胞内カルシウムイオン濃度の上昇、および、収縮部位の細胞膜直下にアクチン線維が細胞の長軸と直交する向きで細胞を取り囲んでいることが確認された。予定中胚葉および予定内胚葉細胞にみられる細胞運動は、カルシウムイオンチャネルであるリアノジン受容体およびイノシトール3リン酸受容体の阻害剤投与により阻害された。 さらに、これら原腸胚細胞にみられる自律的な細胞運動は、いずれもアクチン重合阻害剤により阻害され、微小管重合阻害剤では阻害されなかった。これらの結果から、原腸胚期における胚葉特異的なカルシウムイオン動員機構の発達が、アクトミオシン系の再構築を介して細胞運動および原腸陥入の開始と維持に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
|