研究概要 |
前プラコード外胚葉(PPE)形成を行うべく、神経板外植片にBMP4とFGF2を加えて培養を行うと、上皮細胞形態を示し、神経板外縁に発現する分子マーカーDlx5, Six1, Eya2が増加した。とりわけDlx5の発現量は、タンパク質を加えない培養液内で培養した陰性対象と比較し、およそ10倍高く特徴的であった。最近の知見では、Six1はEya2と複合体を形成し、Six1エンハンサー領域にDlx5結合部位の存在することが示されており、また胚体内の神経板-頭部外胚葉境界におけるDlx5は最初に発現することなどから、神経板外植片培養により作製した細胞群は、PPEというよりはむしろ、神経堤-PPE前駆体であると考えられた。そしてこの前駆体形成には、FGF2の代わりにFGF8を用いても同様の結果を示さないことから、FGF2が重要であることが考えられた。前年度までの結果と併せると、神経板外植片培養により作製された上皮細胞群は、頭部前方の神経堤-PPE前駆体であることが総合的に判断された。 次にFGF8経路の三叉神経プラコード特異性形成に関する役割を調べるために、この神経板外植片培養系にFGF8を加えたところ、FGF8を加えない神経板外植片と比較して、三叉神経プラコード分子マーカーPax3, Brn3a遺伝子の発現量増加が認められた。一方で中枢神経系でFGF8の上流に存在し、かつ三叉神経プラコード形成に共働作用するらしいという報告のある古典的Wnt経路の阻害を、Axin遺伝子の発現獲得実験により試みた。その結果、古典的Wnt経路を阻害した神経板外植片は、古典的Wnt経路を阻害しない神経板外植片と比較して、三叉神経プラコードマーカーの発現量減少が認められたことから、三叉神経プラコード特異性形成においてFGF8経路と古典的Wnt経路が正方向に関わっていることが考えられた。
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