研究概要 |
神経板を用いた外植片培養によって作製した上皮様細胞群は、神経板境界決定因子Dlx5を特徴とした発現量の増加が認められたために、神経板境界を示す遺伝子群をプライマープローブとして用いたリアルタイムPCRを実施した。 その結果、培養液にN2サプリメントのみを加えたコントロール細胞群と比較して、当該条件下で作製した上皮様細胞群において、神経板境界決定因子Dlx5の19倍の増加が認められた上に、神経堤特異的分子マーカーSlugの7倍の増加、神経板マーカーSox2の1/7の減少、胚性外胚葉マーカーGATA3の7倍の増加が認められた。Dlx5が神経板境界決定因子として神経堤と頭部外胚葉、そして神経板の境界を位置付けていること(McLarren et al,2003)を考えると、Dlx5の増加に伴って、その下流で促進される神経堤マーカーや頭部外胚葉マーカーの発現量の増加と、同じく下流で抑制される神経板マーカーの発現量の減少は理にかなう結果となった。また、PPEマーカーであるSix1やEya2の数倍量の増加が結果として得られており、そして一方でSix1はEya2と共にDlx5のエンハンサー部位に直接結合することが知られていることから(Christophorou et al,2009;Sato et al,2010)、これらPPEマーカー遺伝子群もまた間接的に促進されているものと考えられた。ほか三叉神経プラコードマーカーのPax3やBrn3aの数倍量の増加、初期表皮マーカーkeratinl9の数倍量の発現増加も結果として得られた。以上、当該上皮様細胞群は、PPEや神経堤へ分化する前の領域境界を決定するような神経板境界因子を特徴的に示す胚性外胚葉であると結論付けた。 これは神経堤-PPE前駆体形成がどのような環境で誘導されるのかを明らかにし、段階的なプラコード形成機構の解明に役に立つと考えている。
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