妊娠マウスに過剰なレチノイン酸を投与すると、心内膜床形成が低形成になり、大血管転位が引き起こされる。本研究では、レチノイン酸による大血管転位発症の発生学的分子メカニズムを遺伝子発現制御に焦点をあてて解明することを目的としている。昨年度は、申請書に記載した「研究実施計画」のうち、以下の点を明らかにすることができた。 1) マイクロアレイを用いた大血管転位モデルマウス胚の遺伝子解析 マイクロアレイを用いて大血管転位胚で特異的に減少する遺伝子群を同定することができた。このうち、心内膜床形成に関与する因子についてのクラスタリング解析を行い、数種の遺伝子がレチノイン酸により減少していることを見出した。 2) In situ hybridization法による候補遺伝子の局在解析 減少が認められた遺伝子に対するin situ hybridization法を行い、流出路領域に特異的な発現が認められ、かつ、レチノイン酸処理により発現減少が認められる遺伝子「Tbx2」を見出した。 3) Tbx2遺伝子のプロモーター解析 In silicoにてTbx2の遺伝子上流を解析し、プロモーター領域にレチノイン酸応答エレメント(RARE)が存在することを発見した。このプロモーター領域を用いたルシフェラーゼアッセイを行い、このRAREが機能的であり、レチノイン酸シグナルを受けることでTbx2の転写を阻害することを見出した。さらに、同様のレポーターコンストラクトを持つトランスジェニックマウスを作製し、Tbx2の転写がレチノイン酸によってin vivoでも抑制されることを明らかにした。 以上の結果により、これまで不明であった大血管転位の発生学的根拠が明らかになりつつある。今後の実験としては、Tbx2遺伝子を利用して、大血管転位の表現型を回復できるか否かを検討する必要がある。
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