高血圧は、脳卒中、腎疾患、心疾患などの原因となる世界的にもきわめて重大な疾患である。現時点では、高血圧患者のほとんどが、原因が明確ではない本態性高血圧に分類されており、このような現状においては、血圧調節の基本的なメカニズムを再検討する必要がある。そこで、本研究では、in situ標本であるラットの人工脳脊髄液灌流標本を用い、循環調節中枢ニューロンによる循環調節機構が、高血圧モデル動物においてどのように変化しているのかを検討することをその目的としている。当研究課題においては、これまでに、吻側延髄腹外側部に存在する循環調節中枢ニューロン(RVLMニューロン)が低酸素感受性をもち、高血圧モデル動物における恒常的な脳内の酸素不足が、この循環調節中枢ニューロンの低酸素感受性機構を介して、交感神経活動の亢進をもたらしている可能性を示唆する結果を得ている。また、それと同時に、RVLMニューロンからのパッチクランプ記録の解析から、高血圧モデルラットでは、吻側延髄腹外側部ニューロンへの抑制性入力の減弱に伴う交感神経活動の亢進が中枢性高血圧の一因である可能性を示唆する結果を得てきた。そこで、近年呼吸リズムを発生させるリズム発生器に作用し、呼吸リズムを変化させることが報告されているμ-オピオイド受容体作動薬を、ラットの人工脳脊髄液灌流標本に対して投与し、その影響を検討したところ、今までには報告されたことがない呼息相の短縮に基づく呼吸リズムの顕著な変化が見られた。このことは、μ-オピオイド受容体作動薬が、本研究課題で示唆された高血圧疾患における循環調節中枢ニューロンの低酸素感受性と呼吸-循環連関の破綻をより詳細に解析するための新たなツールとなりうる可能性を示唆している。
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