研究概要 |
1. 巨大-枚膜リポソームを用いた流動電位測定法の確立 これまでイオンチャネルにおける流動電位測定は,おもに人工脂質平面膜を用いて行われてきた.しかし平面膜への再構成が困難なチャネルが多く,実際に流動電位が測定された例は数少ない。本研究ではまず,流動電位測定の適用範囲を広げる目的も兼ね,イオンチャネルをはじめ多数の膜タンパク質の再構成実績のある巨大-枚膜リポソーム(GUV)を利用した測定法の開発を行った.本法は細胞系での測定とも異なり,基本的に精製したイオンチャネルを用いる.よって内在性イオンチャネル等の影響を考慮する必要が無く,発生する流動電位に対して一意的な解釈が可能である.また,膜電位コマンドと同期する急速溶液置換装置を備え,浸透圧差印加後のイオンチャネル電流の経時的な性質の変化を観測できるように工夫した. 2. カリウムチャネルに発生する流動電位の観測 次に,実際のイオンチャネルに発生する流動電位観測を試みた.研究対象としたKcsAカリウムチャネルは構造解析が最も進んだイオンチャネルで,現在提唱されているイオンチャネルのイオン透過モデルはこの構造データに基づいている.流動電位の発生は,イオンチャネル電流がゼロとなる電位(=逆転電位;膜の両側のイオン活量が同じであれば0mV)のシフトとして現れる.GUVに組み込んだKcsAチャネルに対し,膜の両側に浸透圧差を与えたところ,その間逆転電位が僅かにシフトした.この逆転電位シフトは印加した浸透圧差に比例することから,イオンチャネルにおける流動電位の発生を観測したものと考えられる.
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