1.イオン透過様式の変化を流動電位から解析 KcsAカリウムイオンチャネルのイオン透過様式が透過イオン種やその濃度によって変化することを、流動電位の解析から得られる水-イオン流束比から明らかにした。カリウムイオン200mM存在下ではチャネル内を等モル数の水分子を伴ってカリウムイオンが透過するのに対し、同濃度のルビジウムイオンが透過する場合はモル比で2倍量の水分子を伴うことが分かった。またイオン濃度の低下とともに伴って透過する水が増加することがわかり、20mMではカリウムイオンに対するモル比で1.8倍量、3mMでは2.2倍量の水分子が同時に透過することを明らかにした。カリウムチャネル結晶構造中のイオンや水分子がイオン濃度によって変化する報告はあるが、低イオン濃度ではイオンを透過させない構造の結晶しか得られず、その構造を基に透過の問題を扱うことはできなかった。本研究結果はイオン透過構造をとっているチャネルのダイナミックなイオン透過様式の変化を捉えた直接的な証拠である。 2.ダイナミックなイオン透過モデルの構築 イオン透過をいくつかのステップに分け、各状態間の遷移をダイヤグラムと速度定数で示したものがイオンチャネルにおける従来の透過モデルである。イオン透過における水-イオン流束比という新しい情報が得られたことから、サイクルフラックスという概念を導入してダイナミックで直観的にわかりやすいイオン透過モデルの構築を試みた。新しい透過モデルでは実験結果を基にダイヤグラム上の各ルートにそれぞれ固有の水-イオン流束比が付与され、溶液条件ごとに使用するルートが変化していく様子を視覚的にシミュレーションすることができた。
|