研究概要 |
洞房結節や房室結節に特異的に発現する持続性内向きNa^+電流(I_<st>)は,自発性活動電位の緩徐脱分極相で活性化されることからペースメーカー活動に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている.しかしながら,選択的阻害剤がないこととその分子実体が不明であることから,I_<st>の生理的意義の解明は進んでいないのが現状である.I_<st>はNa^+によって運ばれる電流であるが,その薬理学的性質は心筋L型Ca^<2+>電流(I_<Ca,L>)に酷似しており,それを担うチャネルタンパク質もI_<Ca,L>チャネルと構造的に類似していると考えられる.洞房結節には,I_<Ca,L>を構成する膜電位依存性Ca^<2+>チャネルα_1サブユニットとして,心筋型Ca_v1.2のみならず神経組織に多くみとめられるCa_v1.3も発現している.本研究は,この点に着目し,Ca_v1.2とCa_v1.3の相互作用によりI_<st>が構成される可能性を検討した。pIRES哺乳動物由来細胞発現ベクターにサブクローニングしたCa_v1.2ならびにCa_v1.3をHEK29細胞に共発現させ、その結果構成されるチャネルの性質をそれぞれ単独で発現したときのものと比較した。ホールセルパッチクランプ法によりチャネル電流の解析を行ったところ,共発現細胞から記録される膜電流の特徴は両者を各々単独で発現したときに生じる電流の単純な合算であり,I_<st>のようなNa^+によって運ばれる電流も観察できなかった。このことからCa_v1.2ならびにCa_v1.3の機能的な相互作用はないと考えられた。一方、新たな展開として、I_<Ca,L>チャネルを人工改変し,I_<st>を模倣しうる変異体チャネルの創造を試みた。Ca_v1.3のCa^<2+>選択性を担うグルタミン酸をリジンに置き換えた変異体(Ca_v1.3-E1660K)はNa^+電流を構成し,I_<st>と類似した電気生理学的ならびに薬理学的性質を示したことから,イオン選択性が変化したI_<Ca,L>チャネルがI_<st>の分子実体である可能性が示唆された。
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