研究課題
線維症患者数は世界規模で年々増加し、深刻な問題である。また、癌治療のための放射線照射や抗癌剤として使用されるブレオマイシン(BLM)の副作用として肺組織の線維化が認められるが、決定的な治療薬は存在しない。線維症は、細胞の損傷をきっかけとして、炎症、コラーゲン・マトリックス沈着を経過して発症する。本研究は、抗炎症作用および増殖作用を持つSCGB3A2は、線維化を抑制する可能性が高いと考え、肺線維症におけるSCGB3A2の効果とその作用機序を検討することを目的とした。初めに、BLM誘導性肺線維症モデルマウスを用いてSCGB3A2の効果を検討し、SCGB3A2が肺線維症の改善を明らかにした。この時、マイクロアレイによってSCGB3A2の下流因子を網羅的に解析した。この結果、特に線維化を促進するTGFβ情報伝達経路の遺伝子群が有意に変化していた。そこで、TGFβ経路に着目して、SCGB3A2の線維化抑制に関与する情報伝達経路を検討した。すなわち、野生型成獣マウス肺から線維芽細胞を分離し、TGFβ刺激により、筋線維芽細胞に分化させた時のSCGB3A2の効果を検討した。この結果、SCGB3A2はTGFβによる筋線維芽細胞への分化とコラーゲン遺伝子の発現を抑制した。この時、SCGB3A2は線維化抑制に働く、STAT1の活性化とSMAD7の発現を増加させ、線維化促進因子であるSMAD2の活性化を抑制していた。このSTAT1の経路は現在臨床で使用されるIFNγの機序に類似している。そのため、SCGB3A2がIFNγ受容体に結合した可能性が考えられた。そこで、IFNγリガンド結合部位に反応する抗IFNγ受容体抗体とSCGB3A2を同時に反応させた時の線維芽細胞のSTAT1の活性をみたところ、STAT1はリン酸化されることが確認された。以上より、SCGB3A2はIFNγ受容体には結合せず、独自の系でSTAT1を活性させ、SMAD7の発現を亢進し、最終的に線維化を抑制することが明らかになった。
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