本態性高血圧症における圧受容体反射異常の原因に、POMC由来ストレス関連ペプチド(ACTH、β-endorphin)の圧受容体反射経路へ直接的な作用の異常が関与している可能性がこれまでの知見から考えられる。そこで、遺伝的高血圧モデル動物を用いて、圧受容体反射経路へendomorphin-2(E-2 ; β-endorphinと同じ内因性μオピオイド受容体作動性リガンド)を選択的投与した時の血圧と心拍の変化を正常血圧ラットと比較し、それらに差異があれば、その原因を調べることを目的とした。E-2を14週齢の高血圧自然発症ラット(SHR/Izm)の孤束核内側亜核(mNTS)に選択的に投与すると、血圧は低下し、心拍数は減少したが、その程度は同週齢の正常血圧ラット(WKY/Izm)への選択的投与時と比べて、有意に小さかった。さらに、高血圧発症前(4週齢)のSHR/IzmのmNTSへのE-2投与においても、血圧低下と心拍数減少がみられたが、その程度は同週齢のWKY/Izmへの投与による反応より有意に小さかった。Real-time RT-PCR法にて、14週齢の両群ラットNTSにおけるμオピオイド受容体mRNAをGAPDH mRNAとの比による相対定量法で検討した結果、SHR/Izmの方が、WKY/Izmより有意に少なかった。これらの結果から、成熟SHR/IzmのNTSにおける、E-2に対する心血管反応性の低下が圧受容体反射異常の一因となり、それが、高血圧の発症、維持に関与している可能性が示唆された。このNTSでの反応性の低下は、同部におけるμ受容体mRNAの数的減少によることが考えられた。高血圧発症前の幼若SHR/IzmのmNTSにおいても、E-2反応性の低下が見られたことから、E-2に対する反応性の低下が、血圧上昇に続く二次的な現象ではなく、遺伝的な現象である可能性が考えられた。
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