前年度の研究において、14週齢の高血圧自然発症ラット(SHR/Izm)の孤束核内側亜核(mNTS)へのendomorphin-2(EM2)の選択的投与により、降圧および徐脈反応が惹起されたが、その程度は同週齢の正常血圧ラット(WKY/Izm)への投与時と比べて有意に小さく、その原因の一つとして、SHR/IzmのNTSにおけるμオピオイド受容体mRNA量がWKY/Izmより有意に少ないことが考えられたと報告した。しかし、以上の結果では、同じμ受容体に作用する他のアゴニスト(β-endorphin等)も同様の反応を起こす可能性がある。そこで、上記のラット2群間のmNTSでの反応の差異がEM2に特異的であるかを検討するため、ストレス刺激に対して様々な反応性を有する視床下部弓状核から、EM2含有ニューロンがNTSに投射しているという報告(Hui et al. Neuroseienee 2006)をもとに、弓状核の電気刺激で惹起される心血管反応に対する、mNTSへの抗EM2抗体投与の影響をみた。その結果、弓状核の電気刺激にて、血圧の上昇と心拍数の増加が見られたが、WKY/Izmではこの反応が、mNTSへの抗EM2抗体の投与により、有意に増強した。しかし、SHR/Izmでは、この反応に有意な変化はみられなかった。抗EM2抗体のmNTSへの選択的投与のみに対しては、2群とも血圧および心拍数の変化はみられなかった。これらの結果から、成熟SHR/IzmのNTSにおける、EM2に対する心血管反応性の低下は、SHR/Izmにおける高血圧の維持には関与していないものの、圧受容体反射異常の一因となり、以前に報告(Ricci et al. Ann N Y Acad Sci 1996)されたSHRにおけるストレス刺激に対する過大な昇圧反応に関与している可能性が示唆された。
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