研究概要 |
中枢神経系の速い興奮性伝達を担うイオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)は、共役する「チャネル」を介して、記憶・学習の分子基盤とされるシナプス可塑性や神経細胞死を制御する重要な分子である。iGluRの機能様式として、近年、チャネル活動を必要としない新しい活性化様式が報告されているものの、その詳細な解析はほとんどなされていない。本研究では、iGluRメンバーであり、小脳のプルキンエ細胞に発現するデルタ2型グルタミン酸受容体(デルタ2受容体)を対象とし、チャネル活動非依存的なiGluRの機能を追究した。 はじめに、昨年度、我々が見出した、デルタ2受容体最N末端のシナプス形成促進作用(Kakegawa et al., J Neurosci, '09)の分子機構を追究したところ、デルタ2受容体N末端には、シナプス前部から放出される分泌性タンパク質のCbln1が結合し、それに伴って、シナプス形成を促進させることを新たに明らかにした。また、Cbln1の発現を欠く遺伝子欠損マウスにCbln1を投与すると、デルタ2受容体依存的に小脳シナプスが回復し、欠損マウスで見られていた重篤な歩行障害も著しく改善されることがわかった(Matsuda et al., Science'10)。 次に、結晶学的にデルタ2受容体への結合が知られていたD-セリンを野生型マウス小脳急性切片に投与すると、デルタ2受容体に結合して、シナプス伝達および可塑性が調節される知見を得た。また、興味深いことに、シナプス機能を制御するD-セリン-デルタ2受容体シグナリングは、デルタ2受容体のチャネル活性非依存的に駆動されることも示された(Kakegawa et al., Nat Neurosci, in press)。 上記結果は、デルタ2受容体がチャネル活動非依存的に生理機能を制御していることを示唆しており、今後、デルタ2受容体機能に関する新たな知見が、iGluRに普遍的な新規活性化様式の理解に繋がるものと期待される。
|