褐色脂肪細胞は、体温維持とエネルギー消費に寄与する熱産生器官である。生体内では、低温暴露により視床下部温熱中枢が刺激されると交感神経活動が亢進し、褐色脂肪組織内でノルアドレナリンが交感神経終末より分泌され、2種のノルアドレナリン受容体(α_1受容体、β_3受容体)を活性化する。α作用は、細胞内でイノシトール三リン酸(IP_3)の合成を促進し、滑面小胞体からの大きなCa^<2+>濃度上昇を引き起こす。一方、β作用では、細胞内にてcAMP濃度を上昇させ、中性脂肪の分解を促進すると同時に、中性脂肪から生成された遊離脂肪酸がミトコンドリアに存在する脱共役タンパク(UCP1)を活性化し、熱産生を引き起こす。その際、ミトコンドリア内膜が脱分極し、ミトコンドリア内のCa^<2+>が細胞質へ放出され、細胞内は緩やかなCa^<2+>濃度上昇を引き起こす。これら細胞内Ca^<2+>は、NADH脱水素酵素を活性化させ、熱産生を促す事が分かっている。 最近、私たちの研究により、α作用とβ作用が互いに密接に連関していることが解ってきた。このαとβ作用の相互作用の機序を明らかにすることが本研究の目的である。 昨年度、私たちの研究によりβ作用による細胞内Ca^<2+>濃度上昇の成分には細胞内Ca^<2+>濃度に依存する成分と細胞外Ca^<2+>濃度に依存する成分の2種類が存在する事を明らかにした。また細胞内Ca^<2+>濃度に依存する成分において、PLCブロッカー:U73122投与下では、β作用によるCa^<2+>濃度上昇が抑制される事から、β作用によりIP_3が生成され、それが滑面小胞体に作用し細胞内Ca^<2+>濃度上昇に寄与している事が明らかになった。このことは持続的な細胞内Ca^<2+>濃度上昇を引き起こす事で熱産生を促している事を示唆している。褐色脂肪細胞での詳細なエネルギーバランス調節機構の解明により、熱産生の調節を制御することによる肥満発症の防止法の開発に繋げる事が本研究の意義である。
|