研究概要 |
褐色脂肪細胞は、体温維持とエネルギー消費に寄与する熱産生器官である°低温暴露により視床下部温熱中枢が刺激されると交感神経活動が亢進し、交感神経終末よりノルアドレナリン(NE)が分泌され、2種のNE受容体(α1受容体、β3受容体)を活性化する。α作用は、細胞内でイノシトール三リン酸の合成を促進し、滑面小胞体からの大きなCa^<2+>濃度上昇を引き起こす。一方、β作用では細胞内にてcAMP濃度を上昇させ中性脂肪の分解を促進する。同時に中性脂肪の分解により生成された遊離脂肪酸がミトコンドリアに存在する脱共役タンパクを活性化し熱産生を引き起こす。その際、ミトコンドリア内膜が脱分極し、ミトコンドリア内のCa^<2+>が細胞質へ放出され、細胞質は緩やかなCa^<2+>濃度上昇を引き起こす。これら細胞質Ca^<2+>は、NADH脱水素酵素を活性化させ、熱産生を促す事が分かっている。これまでの研究成果により、β作用による細胞内Ca^<2+>濃度上昇の成分には3相の成分が存在する事を見出した。1相目はミトコンドリアからのCa^<2+>遊離、2相目はそれに伴う滑面小胞体(ER)からのCa^<2+>遊離、3相目はER内Ca^<2+>の枯渇に伴う細胞外からのCa^<2+>流入によるものであった。この連続した長時間にわたる細胞内Ca^<2+>濃度増大を引き起こす事で、褐色脂肪細胞は持続的な熱産生を促している事が示唆される。これらの研究結果をまとめ、雑誌Cell Calcium (Elsevier)に投稿し、受理された(Hayato et alf.,2011 In press)。褐色脂肪細胞での交感神経伝達物質あるいはホルモンによるα作用とβ作用の相互作用の機序を明らかにすることにより、褐色脂肪細胞での詳細な熱産生とエネルギーバランス調節機構の解明に新局面を開き、この詳細なエネルギーバランス調節機構の解明により、褐色脂肪細胞での熱産生の調節を制御することで肥満発症の新しい防止法の開発に寄与する。
|