本研究の目的は、これまで細胞レベルで解研されてさた小胞体ストレス応答を細胞間シグナル伝達や動物個体のレベルで解析することにより、小胞体ストレス応答の新たな機能を発見することである。 そこで本年度はマウスを用いて胎盤と唾液腺における生理条件下での小胞体ストレスの解析から、それぞれIRElalpha(小胞体ストレスセンサー分子)とERdj5(小胞体分子シャペロン)の生体機能の解明に迫った。得られた研究成果としてIRElalphaが胎盤で活性化状態にあり、その欠損では胎盤迷路部の血管形成不全をもたらすことを明らかにした。またIRElalphaの欠損は胎盤の血管内皮成長因子(VEGF)の発現低下も引き起こすことも示した。さらに条件的遺伝子破壊技術を用いてIRElalpha遺伝子破壊マウスの耐性致死性の原因が胎盤機能不全である可能性を発表した。ERdj5遺伝子破壊マウスでは唾液腺の小胞体ストレス状態がわずかに悪化することを発見し、ERdj5が唾液腺で主要に産生されるアミラーゼの品質管理に貢献することも明らかにした。 IRElalphaの新規標的分子のスクリーニングにも取り組んだ。得られた研究成果として胎盤で特異的に発現するCEAファミリー遺伝子群の転写がIRElalphaとXBP1に依存することを明らかにした。またRNaseとして機能するIRElalphaの基質RNAも新たに13種類同定し、IRElalphaが認識するRNAの配列および構造を見つけ出した。 これらの研究は多細胞生物の成体レベルで発生し得る生理的な小胞体ストレスを軽減するための新たな仕組みの発見につながっていくと信じている。
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