本研究の目的は、これまで細胞内レベルで解析されてきた小胞体ストレス応答を新たな視点(特に動物個体レベル)で解析することにより、小胞体ストレス応答の新たな機能を発見することである。 そこで本年度はIRE1alpha(小胞体ストレスセンサー分子)の条件的破壊マウスを用いて膵臓と免疫機能における小胞体ストレス応答の生体機能の解明に迫った。得られた研究成果としてIRE1alphaの欠損マウスは低体重、高血糖、低インスリン血漿の傾向を引き起こすことを明らかにし、膵臓ランゲルハンス島β細胞での重要性を示した。一方で、これら膵臓内分泌組織に対してだけでなく膵臓腺房組織(消化酵素などの外分泌組織)に対しても重要な機能があるようで、IRE1alphaの欠損マウスでは膵臓腺房組織での海綿状病変が観察された。また抗体産生細胞であるB細胞においてもIRE1alphaは重要な機能を有しており、その欠損マウスでは免疫グロブリンの産生能が低下することも明らかにした。 加えてIRE1alphaの新規標的分子のスクリーニングにも取り組み、8つの新たな分子を発見し、IRE1alphaの標的RNA認識機構の一端を解明した。 熊本大学との共同研究では生体イメージング技術により抹消マクロファージにおける小胞体ストレスを捉えることに成功し、動脈硬化性血栓剥離にかかわるCHOP(小胞体ストレス性アポトーシス誘導因子)の機能解明に貢献した。 これらの研究を通じて、基礎的な細胞生物学の中だけではなく、医学的な側面でも小胞体ストレスを重要視できる貴重なデータを得た。
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