近年、破骨細胞による骨破壊が様々な病気と関連していることが報告されているが、生体内での詳細な破骨細胞分化制御機構は未だ明らかになっていない点が多い。現在までに報告されている破骨細胞分化に異常を示すノックアウトマウスの知見から、破骨細胞分化を誘導するシグナル伝達経路においてIP_3および、IP_3の擬似体とも言えるIRBITの役割を解明することがカルシウムオシレーション非依存的な分化メカニズムの解明に繋がると考え、本年度はIRBITの破骨細胞分化における役割を明らかにすることを中心に研究を行なった。 IRBITノックアウトマウス由来の細胞を用いた解析により、IRBITをノックアウトすると「細胞融合」のステップが亢進し、結果として多核の破骨細胞形成が亢進することが明らかとなった。破骨細胞分化誘導時に観察されるカルシウムオシレーションは頻度や大きさには有意な差がみられなかったが、カルシウムオシレーションを呈する細胞の割合がIRBITノックアウト細胞で明らかに増えていた。このことから、IP_3Rを介したカルシウムシグナルが細胞融合を亢進する働きを担っていること、そのカルシウムシグナルはIRBITによって負に制御されていることが明らかとなった。また、カルシウムオシレーション依存的および非依存的な破骨細胞を誘導する骨芽細胞との共存培養系においてもIRBITノックアウト細胞の分化亢進が観察された。カルシウムオシレーション非依存的な破骨細胞分化メカニズムにおけるIRBITの役割の解明までには至らなかったものの、本研究によりIRBITが破骨細胞分化の細胞融合のステップを負に制御している分子であることが明らかとなった。
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