[目的]本研究の目的は、自発運動に先立つ大脳皮質活動の上昇、圧反射抑制、動機付け行動との関連について検討すること、さらに、この一連の反応におけるvasopressin V1a受容体の役割を明らかにすることである。 ・Vasopressin V1a受容体遺伝子欠損マウス(V1a KO)の大脳皮質活動と圧反射性ゲインの測定: 頭蓋表面に脳波電極、大脳皮質運動野(付近)にレーザードップラー血流計プローブ、さらに、大腿動脈にカテーテルをそれぞれ慢性留置したV1a KOマウスにおいて、脳波のθ/δ比、脳血流、動脈血圧、心拍数、行動量(赤外線センサー)を自由行動下で連続測定した。さらに、血圧の自発性動揺(ΔMAP)に対する心拍数変化(ΔHR)の相互相関関数R(t)と圧反射ゲイン(ΔHR/ΔMAP)を算出し、これらの反応を正常マウス(WTマウス)と比較した。 その結果、大脳皮質活動の指標として4秒ごとに算出した脳波のθ/δ比が有意に(2SD以上)上昇する期間は、V1a KOマウスでは全安静期間の9±1%と、WTマウスの3±2%より高かった(P<0.05)。しかし、θ/δ比が上昇した後にV1a KOマウスが動く確率は15±8%と、WTマウスの64±7%と比較して低かった(P<0.01)。さらに、WTマウスでは、大脳皮質活動の上昇に伴って、圧反射抑制が抑制されたのに対して、この反応はV1a KOマウスでほぼ消滅していた。 以上より、V1a受容体は大脳皮質活動の上昇に伴って、圧反射を抑制させることにより、自発運動の開始に重要な役割を果たしていること、またV1a KOマウスの大脳皮質活動が高頻度で上昇することは、動機付け行動が達成できないことに対する補償適応であることが示唆された。
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