昨年度までの本研究において、老齢(18ヶ月齢:A)および若齢(6ヶ月齢:Y)齧歯動物を、富裕(遊具あり:E)または通常(遊具なし:N)の飼育環境において3ヶ月間(6時間/日)訓練したのち、object recognition task(遅延24時間)にて物質認知機能を評価したところ、A-E群の認知能力は、A-N群と比較して有意に向上した。さらに、上記した両群の海馬組織における蛋白質発現変化を、抗体アレイ法およびウエスタン・ブロット法により解析した結果、二十数種類の蛋白質に顕著な発現変化が観察された。そのひとつとして、繊維芽細胞成長因子であるbasic Fibroblast Growth Factor (bFGF)が2倍以上の発現増加を示したため、本年度は、このbFGFに着目して研究を進めた。まず、老齢齧歯動物を用いてenriched environment trainingを行う代わりに、浸透圧ミニポンプによりbFGFを脳室内に2週間持続注入したのち、object recognition taskにて認知機能の変化を評価した。その結果、対照群と比較して、bFGF注入群は、有意な物質認知機能の上昇、つまり認知機能低下の改善が見られた。次に、その動物の急性海馬組織スライスを用いて、電気生理学的実験を試みたが、興奮性後シナプス電位を安定して検出することができず、シナプス可塑性(長期増強)の変化について検討することができなかった。今後は、再度、bFGFを脳室内に持続注入した老齢齧歯動物を作製し、その動物の海馬組織におけるシナプス可塑性関連蛋白質(グルタミン酸受容体、栄養因子およびその受容体など)の発現レベルや活性化レベルを検討する。
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