研究概要 |
本研究は,哺乳動物細胞に極めて近い細胞内情報伝達系を持つ分裂酵母モデル系を用いて,バルプロ酸(valproic acid, VPA)の膜輸送系における標的分子の同定を分子遺伝学的に解明しようとするものである。VPAはてんかんや躁状態に対して有効であることが発見されて以来,薬物として広く用いられている。最近体細胞からiPS細胞をつくる過程でVPAを加えると作製効率が100倍以上にあがることも報告されている。このように,VPAは多彩な作用を示すが,その標的分子が何であるのか,そしてどのような分子メカニズムでVPAが働くのかに関してはほとんど不明である。我々は,分裂酵母をモデル生物として用いて分子遺伝学的研究を進め,本年度は以下の結果を得た。 (1) VPA超感受性変異体の遺伝子及び機能的に関連する因子の同定と解析:VPA超感受性変異体を同定したところ,TGNからのクラスリン被覆小胞に存在するアダプタータンパク質複合体-1(AP-1)のσサブユニートをコードするAps1であった。興味深いことに,四量体Apl2(β)/Apl4(γ)/Apm1(μ)/Aps1(σ)の各ノックアウト細胞は異なる表現型を示し,Δapm1とΔapl2変異体は同じ表現型,Δapl2とΔapl4は同じ表現型を示した。結合実験により,Aps1とApl4の非存在下でもApm1とApl2は結合し、Apm1とApl2の非存在下でもApl4とAps1は結合することが分かった。これらの結果から、ヘミコンプレックスの存在が明らかになった。また、別のVPA超感受性変異体原因遺伝子として,低分子量G蛋白質RabファミリーRyh1/Rab6のGEFをコードするRic1が同定された。さらに、Ric1変異体の温度感受性は、セリン/スレオニンキナーVps15の高発現によって抑圧されるという遺伝学的関係を発見した。 (2) VPA耐性変異体の取得と解析:ニトロソグアニジンで突然変異処理した野生細胞を15mM,17mM,20mMのVPA培地に播き、30個のVPA耐性コロニーを得た。30個中4個の株ではVPA耐性が遺伝した。今後は、相補性を指標としたスクリーニングを行い,変異遺伝子の同定を行う予定である。
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