研究概要 |
バルプロ酸(VPA)は、抗てんかん薬,抗躁薬として広く用いられ、抗がん薬の作用を増強することも知られている。近年、ips細胞の作成過程でVPAを加えると、作製効率が100倍以上上昇すること、また本年8月には、神経幹細胞移植とVPAの同時投与による脊髄損傷マウスの治癒が報告されている。このようにVPAは多彩な作用を示すが、その標的分子が何であるのか、そしてどのような分子メカニズムで働くのかに関してはほとんど不明である。我々は、VPAの標的分子を分裂酵母モデル生物を用いて、分子遺伝学的研究を進め、本年度は以下の結果を得た。 (1)VPA超感受性変異体の遺伝子及び機能的に関連する因子の同定と解析:今までVPA超感受性変異体を同定したところ、細胞内輸送に関わっているVps45とアダプタータンパク質複合体-1(AP-1)のσサブユニートをコードするAps1を同定できた。今年度、別のVPA超感受性変異体原因遺伝子として,低分子量G蛋白質RabファミリーRyh1/Rab6のGEFをコードするRic1が同定された。さらに、Ric1変異体の温度感受性は、セリン/スレオニンキナーゼVps15の高発現によって抑圧された。興味深いことに、Vps15の高発現はRic1ノックアウトの表現型を抑圧できなかった。Vps15はRic1依存的に相補能を示していることを明らかにできた。これまで同定したVPA超感受性変異体の原因遺伝子がすべて細胞内膜輸送に機能していることから、VPAの標的分子は細胞内膜輸送に機能する遺伝子と深く関連していることが示唆された。 (2)VPA耐性変異体の取得と解析:今年度、分裂酵母のほぼすべての非必須遺伝子のKO細胞ライブラリーが入手できたので、これらの細胞をVPA含有プレートにストリークし、超感受性またはVPA耐性の細胞をスクリーニングした。現在詳細の結果を確認しているところである。今後さらなる解析を行う予定である。
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