これまでの申請者の解析の結果から、あるプロスタグランジンE2(PGE2)受容体欠損マウスでオス型性行動の減弱が観察されることが分かったが、さらに詳細な解析をするべく神経特異的な遺伝子欠損マウスを作成し性行動解析を行ったところ、予想に反して性行動減弱は観察されなかった。また、オスの血中濃度を再現すべくテストステロンを持続投与した受容体欠損マウスでは、オス型性行動のうちmounting行動およびintromission行動は野生型マウスに匹敵するほどに回数、潜時ともに回復が見られたが、射精行動の潜時については変化が見られなかった。以上のことからPGE2による性行動の制御は神経細胞以外の細胞が関与するものであることが示唆され、各種オス型性行動はそれぞれが性ホルモンと複雑に関わり合いながら個別の制御システムにより調節されていると推察される。 In vitroの実験ではセルライン化された新規の視床下部神経細胞を用いて引き続き解析を行った。この細胞の分化誘導後にPGE_2で刺激をすると顕著に神経突起を伸長させることからがわかり、その下流のシグナルについて解析を進めた。その結果PGE_2刺激後にカルシウムの流入は見られず、加えて代表的なcAMPアナログでの刺激やPKA阻害薬の効果も観察されなかった。しかしながら、このシグナル経路にはERKが関与していることが明らかとなった。以上の結果からPGE_2はGタンパク質共役型受容体で見られるカルシウム上昇やcAMPの変化といった古典的なシグナル経路を介さず、新規の経路で神経突起伸長を誘導していることが示唆された。本研究により得られた結果は性分化を始めとした視床下部を中枢とする生理作用にはPGE_2が重要な役割を担っていることを示唆するものであるとともに、胎児期のPGE_2調節障害は将来の異常行動を誘引する神経ネットワーク形成異常を引き起こす可能性を示す。
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