レニン-アンジオテンシン系(RAS)は、心血管系の機能調節、疾患形成において重要な役割を果たしている。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬はアンジオテンシンII(Ang II)の産生を抑制するが、Ang II産生抑制以外のRAS抑制非依存的作用があると言われている。2007年に報告されたBPLTTCでは、ACE阻害薬による主要冠動脈疾患イベントに対する、血圧非依存性抑制効果はACE阻害薬では見られたがアンジオテンシンII1型受容体プロッカーでは認められなかったことが確認された。ACE阻害薬のRAS抑制非依存的作用は、循環器系臓器保護作用の重要な部分を司っている可能性が高いことが明らかである。そこで、ACE阻害薬のRAS抑制非依存的作用の実験法を確立し、その作用を解明することを目的とした。病態モデルとして、Ang II慢性刺激による高血圧ラットを作製し、この環境下でのACE阻害薬のRAS抑制非依存的効果を解析した。外的なAng IIの強制刺激環境下では、理論上ACE阻害薬は有効性を示さない。しかし、ACE阻害薬の降圧を超えたRAS抑制非依存的効果を解明するには、この実験環境は極めて有効だと考えた。Ang II投与ラットでは血圧の上昇、心肥大、心臓の線維化、心臓超音波検査により心機能の低下が確認された。ACE阻害薬投与による血圧降下は確認されなかったが、心臓の線維化および心機能の低下が抑えられていたことを明らかにした(論文投稿準備中)。また、このACE阻害薬の作用はブラディキニンB2受容体拮抗薬によって抑制されなかったことから、ブラディキニンによる可能性は極めて低い。組織染色の結果から、COX-2の可能性が示唆された。ACE阻害薬がACEに結合し、ACE細胞内情報伝達が活性化され、COX-2の発現を誘導することによると考えられる。今後、さらに詳細な心機能評価および細胞内情報伝達メカニズムの解析を進めていきたい。これらの結果は、ACE阻害薬が高血圧の治療のみならず、心疾患に対するより緻密な治療法の開発に貢献することが期待される。
|