神経細胞内の抗酸化物質グルタチオンを減少させると神経変性が起こる。実際、パーキンソン病患者死後脳の中脳黒質では対照群と比較してグルタチオンが減少していることが知られている。神経細胞ではEAAC1がシステインを細胞外から直接取り込み、グルタチオンを合成していると考えられている。最近、研究代表者はEAAC1によるシステインの取り込みをGTRAP3-18がドミナントネガティブに調節していることを明らかにした。そこでGTRAP3-18タンパク質を標的タンパク質として、EAAC1機能を促進もしくは抑制する生体内物質もしくは合成化合物を探索することにより、神経細胞内のグルタチオン量を変化させるものを見出し、パーキンソン病などの神経変性疾患の治療に寄与する基礎的情報を提供することを目的として研究を行った。 グルタミン酸トランスポーターファミリーの中でEAAC1のみを発現している培養細胞HEK293を用いて、 GTRAP3-18がEAAC1に対して抑制的に制御するために必要な因子の探索を行った。まず、GTRAP3-18が何らかの因子により活性調節を受けている可能性を調べるために、GTRAP3-18自身が翻訳後修飾されているか否かの検討を行った。リン酸化セリン・リン酸化スレオニン・リン酸化チロシンに対する特異抗体を用いて、HEK293細胞内GTRAP3-18のリン酸化状態を調べた結果、抗リン酸化セリン抗体に強い反応性を示すことを見出すことに成功し、リン酸基修飾がみられることを明らかにすることができた。この結果から、GTRAP3-18によるシステインの取り込み制御機構にセリン・スレオニンキナーゼの関与が予想された。そこで現在、どのようなキナーゼが関与しているのかを既知キナーゼ阻害物質ライブラリーを用いて、細胞内グルタチオン濃度に影響を与える物質のスクリーニングを行っている。 平成22年度はEAAC1によるシステインの取り込みを制御する因子の同定を行う予定である。
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