糖尿病時に見られる感覚異常に対する中枢神経系機能変化の関与を明らかにするために、脳内において痛覚や感覚の神経伝達が行なわれている部位である視床におけるグルタミン酸神経系の機能を、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病マウスを用いて検討した。グルタミン酸を健常マウスの視床へ注入することにより、注入側とは反対側の足における感覚刺激に対する感受性の亢進(アロディニア)が認められた。このアロディニアは、グルタミン酸処置後直ちに認められ、96時間後に消失した。STZ誘発糖尿病マウスの視床外側核へNMDA受容体拮抗薬であるMK-801ならびにAMPA受容体拮抗薬であるNBQXを処置した際には、圧刺激に対するアロディニアが消失した。一方、対照群マウスにおいては、いずれの拮抗薬も圧刺激の閾値に対して有意な影響を与えなかった。さらに、MK-801は、グルタミン酸処置24時間後におけるアロディニアを抑制したが、NBQXの処置では有意な影響が認められなかった。さらに、視床外側部におけるNMDA受容体サブユニットならびにAMPA受容体サブユニットのmRNA発現量は、糖尿病マウスならびに対照群マウスの両群において、有意な変化は認められなかった。これらの結果から、グルタミン酸の視床外側核への処置によるアロディニアの発現に、NMDA受容体の活性化に伴う神経細胞の可塑的変化が関与していることが明らかになった。さらに、糖尿病時には、脳内における痛覚伝達が亢進しており、これが糖尿病マウスに見られるアロディニアの発現に一部関与している可能性が示唆された。一方で、糖尿病マウスの視床外側核のNMDAおよびAMPA受容体のmRNA発現量が、対照群マウスとほぼ同程度であったことから、グルタミン酸神経系の機能亢進は、遺伝子転写レベルではなく、高血糖の持続もしくはインスリン欠乏によるタンパク質修飾の変化が関与している可能性が示唆された。
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