研究課題
糖尿病時にみられる合併症の一つである感覚異常発現に対する中枢神経系の関与を明らかにするため、前年度に引き続き検討を行った。感覚情報を受け取る大脳皮質へグルタミン酸を微量注入すると、注入側とは反対側の足での触刺激に対する感受性の亢進(アロディニア)が認められた。このアロディニアはグルタミン酸処置後直ちに認められ12時間後に消失した。このグルタミン酸によるアロディニアは、NMDA受容体拮抗薬(MK-801)ならびにAMPA受容体拮抗薬(NBQX)により消失した。さらに、I型糖尿病モデルであるストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病マウスの大脳皮質S1領域へMK-801ならびにNBQXを処置するとアロディニアが消失した。一方、対照群マウスにおいては、いずれの拮抗薬も圧刺激の閾値に対して有意な影響を与えなかった。次に、脳内のインスリン受容体の痛覚伝達に対する影響を明らかにするために、脳室内へSTZを投与し、脳内のインスリン受容体機能を障害した動物を用いて検討を行った。脳室内へSTZを処置するとアロディニアが出現した。このアロディニアは、インスリンの脳室内投与により消失した。また、STZによるアロディニアは、MK-801によっても消失した。これのことから、脳内のインスリン受容体機能障害はグルタミン酸神経系の機能亢進が起こし、アロディニアが出現する可能性が示唆された。そこで、糖尿病マウスの大脳皮質S1領域におけるグルタミン酸受容体(NMDA受容体ならびにAMPA受容体)のmRNA発現量をRT-PCR法により検討したところ、遺伝子発現に変化は認められなかったことから、遺伝子発現の変化よりもタンパク質の修飾変化による可能性が示唆された。最後に視床における神経系細胞の発現を免疫組織化学的に検討したところ、糖尿病マウスにおいて、グリア細胞のうちアストロサイトの発現が上昇していた。本研究結果を総合すると、中枢神経系の機能変化が糖尿病時にみられる感覚異常発現に大きく関わっていることが明らかになった。
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