本研究は炎症性中枢神経疾患における脳特異的な炎症細胞の浸潤が脳血管内皮細胞-脳ペリサイト間情報伝達によって引き起こされる可能性を複眼的視点から追求し、自己免疫疾患における中枢神経変性の新たな治療標的を提供することを主眼とし、平成22年度は脳血管内皮細胞上の接着分子(ICAM-1およびVCAM-1)発現および炎症細胞遊走における脳ペリサイトの役割を明らかにした。 炎症性サイトカインTNF-αはマウス脳血管内皮細胞株(MBEC4)のICAM-1およびVCAM-1発現量を増加させた。また、多発性硬化症患者の血液中に多く認められる他の炎症性サイトカインIL-6およびIL-1βはICAM-1およびVCAM-1発現量を増加させなかったことから、TNF-αが主要な接着分子発現誘導因子であることが示唆された。脳ペリサイト共培養下(MBEC4/Pericyte co-culture)では、TNF-αによるこの接着分子発現増加作用は阻害され、マクロファージ細胞株であるJ774A.1細胞の血液脳関門浸潤を抑制した。このとき、TNF-αによるアルブミンの血液脳関門透過に変化は認めなかった。これらの結果は炎症細胞の浸潤は脳血管内皮細胞間の密着結合の破綻によるものではなく、経内皮的に脳実質へ浸潤することを示唆する。以上、脳ペリサイトは炎症性病態下における脳血管内皮細胞上の接着分子発現を抑制し、炎症細胞の脳実質への浸潤を抑制することが判った。この知見は炎症性病態下における炎症細胞の脳浸潤を防ぐ新たな治療標的として脳ペリサイトを提示するものである。
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