PSD-95はシナプス後肥厚(PSD)を構成する主要タンパク質の一つで、PSDの維持、NMDA受容体のクラスタリング、NMDA受容体からのシグナル伝達制御などに関与している。私たちはニューロンにおいてPSD-95と相互作用する分子を探索してSPAL-1(SPA-1-like-1)を同定し、その機能解析を進めてきた。本研究では、私たちが作製したSPAL-1ノックアウトマウスを用いて多角的な解析を行い、SPAL-1の生理機能を明らかにすることを目的とする。 我々は当該年度の研究において、SPAL-1ノックアウトマウスの海馬急性スライスを用いた電気生理的解析を中心に進めてきた。これまでにCA1領域の電気生理においては顕著な表現型は得られていないものの、CA3領域において、苔状線維LTPなど複数の検査で著しい異常があることを明らかにした。これまでの一般的な考えでは苔状線維LTPの発現メカニズムは前シナプス依存的というのが主流で、後シナプスのメカニズム的な寄与は十分にはわかっていない。CA3透明層におけるSPAL-1の発現は主に後シナプスであり、またSPAL-1ノックアウトマウスの透明層におけるp42/44MAPKの活性が著しく低下していることから、当該領域におけるシグナル伝達経路に何らかの異常があることは間違いない。海馬LTPの分子メカニズムは記憶と学習のメカニズムの基盤を成していると考えられているため大きな関心が寄せられており、本研究のさらなる進展により苔状線維LTPのSPAL-1が関与する新たなメカニズム、またSPAL-1ノックアウトマウスが呈する注意欠陥多動性障害(ADHD)や統合失調症様の表現型を含む行動異常のメカニズムの一旦が解明されることが期待される。
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