ES細胞は未分化状態では自己複製が可能であるが、分化とともにその自己複製能は失われ、増殖能が低下してゆく。この概念はがん細胞にも当てはまり、ES細胞の自己複製と、がん細胞の増殖には共通の分子機構が存在すると考えている。そこで本年度は、がん遺伝子に代表されるがん細胞の増殖に関与する遺伝子の中で、ES細胞にも強く発現している遺伝子を探索した。その結果、ETV5 (ETS Variant gene 5)、Max (Myc-Associated Factor X)そしてEWSR1 (Ewing Sarcoma Breakpoint Region 1)を候補遺伝子として絞り込むことができた。これらの遺伝子発現を検証したところ、3遺伝子ともES細胞で強く発現しており、LIF除去により細胞を分化させてもなお、発現は維持された。興味深いことに、ES細胞を栄養外胚葉に分化させると、ETV5のみ発現が減少した。Oct3/4の発現停止に伴いETV5の発現も減少することから、ETV5はOct3/4の下流で機能しES細胞の自己複製を制御していると考えられる。そこで来年度は、ETV5遺伝子の破壊ES細胞(ノックアウトES細胞)を作製し、ETV5がES細胞の幹細胞性にどのように関与しているのか、その分子機構の実体にせまる予定である。
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